数あるレスキューギアの中でも、比較的取り扱いが容易で、携行するにもかさばらず、価格も割と安価でしかもレスキューギアとしての有効性がとても高いものにスロー・バッグ(スロー・ロープとかレスキュー・ロープなどとも呼ぶ)があります。とは言ってもレスキューする人も助けられる人も流れの特性や、ロープを扱う上で知っておかなければならないこともずいぶんあります。さもないとレスキューする人が流れに引き込まれたり、助けられる人にロープが絡まったり、かえって危険を増す結果にもなりかねません。
いざというときを想定して普段から十分練習を積んで下さい。

投げるときの注意と投げ方

1 投げる場所は全体が良く見渡せて、安定の良い場所で下流側に漂流者を引き寄せやすいエディのある場所を選ぶ。滑りやすい岩の上や周りに樹木などの障害のあるところは避ける。
2 ロープが収納されているバッグの口を開け、端を2〜3M引き出します。端の結び目から余裕を持ってロープを左手で握り、右手でバッグをつかみます。このときロープの端の結び目の輪の中に手を通してはいけません。緊急の場合にはいつでもロープをリリースできるようにしておきます。(右投げの場合)
2 声やホイッスルを使って、漂流者の注意を自分の方に引きつけ、ロープを投げることを知らせます。
3 漂流者に直接バッグが当たるように狙いを定め、スムースで安定した動作で、アンダースローでバッグを投げます。流れに揉まれている漂流者の視界は狭く、後ろ側には注意が届きにくいので、出来るだけ直接手が届く範囲に狙いを定めます。

受け取ってからの確保の仕方(漂流者)

1 両手でしっかりロープを握ったら、素速く仰向けの姿勢をとります。(うつぶせの状態で引っ張られると顔に水がかぶり、呼吸が出来なくなります)
2 片方の手を胸の前もう一方の手を肩の位置に置きしっかりロープを握ります。ロープエンドにループがある場合でも、ループに手を通したり、またロープを腕に巻き付けてはいけません、何らかの原因でロープを持っていることが危険になった場合には、即リリースできるようにしておきます。
この場合も流れの力を効率的に活かすために、フェリー・アングルを取ります。右岸に寄せられるときは左手を肩の位置に、逆に左岸に寄せられるときは右手を肩の位置に取ります。

引き寄せ方(救助者)

1 ロープの弛みが無くなって、ロープにテンションがかかる瞬間に、救助者にも漂流者にも大きな力が掛かります。その力に耐える体勢を整えます。
2 出来ればあらかじめロープをたぐり寄せ弛みを少なくしておき、漂流者の動きに合わせて、テンションが掛かりそうになったら少しロープを繰り出すようにすると、ショックを和らげることが出来ます。流れが速くそれでも大きなショックが予想されるときは、救助者も下流方向に移動してショックを出来るだけ少なくしてやります。漂流者がロープに掛かるショックの力に耐えきれず、ロープを手放してしまうことがあるからです。
3 漂流者を振り子のように、慎重に岸に寄せます。救助者は自分の足場と漂流者の両方に常に注意を払い、声を掛け合いコンタクトをとり続けます。
*ロープの下流側の岸に他の人を立ち入らせないように(立ち入らないように)して下さい、ロープと下流側の岸の岩や木に体を挟まれる危険があります。

ボディ・ビレイについて

流れがあまりにも速い場合、腕の力だけでは支えきれないときがあります、腰の後ろにロープを回して、体の力とロープの摩擦を利用するボディ・ビレイという方法がありますが、この方法を取るべきか否か北米のレスキュー・インストラクターの間では意見が分かれています。ボディ・ビレイを取った場合、腕だけの場合よりもより速い流れに対抗でき、効果的に漂流者を岸に着けられると言う意見と、救助者自身がショックで流れに引き込まれたり、怪我をする危険性を指摘する意見とに分かれています。一方ヨーロッパではオーバー・ザ・ショルダービレイという方法が取り入れられています。腰の後ろに回す方法に比べて、重心を低くしてより安定させることが可能です。
また、立った姿勢よりもしゃがんで足で踏ん張った方が安定します、救助者が多い場合は、ロープを確保している人の背後から他のひとがライフ・ベストのショルダー部分をつかんで、より安定させることも可能です。
いづれの方法もこれがベストという方法はなく、実際の現場に置いては、状況に応じて最も安定し、且つ安全と思われる方法を採るべきです。
但し、ロープの端を木に縛り付けたりすることは、してはいけません、

ロープエンドの処理ついて

先にロープエンドのループには絶対手を通してはいけないと言いましたが、ロープエンドの処理についてもいろいろな意見があります。漂流者の体にロープが絡まり、さらにロープエンドのループや結び目が川底の岩に挟まって、皮肉にも救助するためのロープが漂流者の命を奪うという、残念な事故がこれまでに発生したために、英国ではロープエンドにループも結び目も作らないと言う方法が広まりつつあります。
ロープエンドの処理についてもこれがベストと言うことは、現段階では言えませんが、ご自分のスロー・ロープを一度チェックしてみて下さい。少なくとも手首が簡単に入るような大きなループの処理がなされていたら(従来品はほとんどこのタイプが多いと思われます)改善を施して手首が通らないようにしておくべきです。
私は現段階では、極小さなループを作っています、というのは一本のロープだけでは長さが足りず、2本以上連結する必要が生じたときや、艇の回収時にカラビナを利用する場合にすぐに対応できる事を優先させているためです。
全く結び目を作らない、結び(コブ)だけにしておく、小さなループを作る、ご自分のロープでいろいろ試してみて下さい。

ロープの持つ危険性

スローロープは非常に優れたレスキュー・ギアであることは異論のないところですが、ロープが持つ危険性も忘れないで下さい。ロープを掴んだ状態では流れの影響で簡単に体が回転してしまうことがあります、またロープ自体も流れに揉まれて予測できない動きをします。もし体にロープが絡んでしまったら、そして水圧できつく締まってしまったら、ふりほどくことは不可能になるかもしれません。
ですからホールやローヘッド・ダムのハイドローリックに捕まっている遭難者に対しては、ロープの使用を避けるかよほど慎重に対応しなければなりません。また前の項で述べたように、川底の岩や堆積物に絡まることも考えられます。
スローロープは水に浮くタイプ(フローティングロープ)が用いられます、水に沈むタイプ(シンキングロープ)を代用に用いた場合より危険性が高まりますので注意しましょう。
くどいようですが、エンド・ループに手首を通したり、腕に巻き付けたり、体ヤライフジャケットに直接ロープを縛り付けるのは非常に危険です、絶対にしないで下さい。またクイックリリース機能付きのライフジャケットといえども、ロープを装着することは危険を伴います、良く訓練された限られたものだけが、必要最低限の使用にとどめるべきです。
ロープを扱う場合には最悪のことを考えて、各自がナイフを携行することをお薦めします。(どんなナイフがよいのかについては、レスキューギアの項を参考にして下さい)

スロー・バッグの保守

スローバッグはいざというときにいつでも使えるように日頃の保守も大切です。投げたもののバッグの中でロープが絡まっていて、団子状に飛び出して目の前に落下なんていう、笑えないハプニングが現実に起きています。
ロープはほとんどがポリプロピレン製です、熱や摩擦には弱いので岩角でこすったりしないようにしましょう。ねじれ、紫外線、化学薬品にも注意して下さい。
バッグに収納するときには、砂や小石が混じらないように注意して、バッグの底の方から押し込んでいきます、面倒くさいからといって丸めて押し込むと、結果はおわかりですね。

以上述べましたことはあくまでも基本原則であり、実際の状況はさまざまです、現実の状況に応じて最も安定し、且つ安全と思われる方法を選択することです。そしてスローバッグ・レスキューを確実に成功させるためには普段からの練習が必要不可解です。漂流者までの距離を目測し、確実にロープを届かせること、流れの速さを読みショックに耐える体勢を作り出すこと、安全確実に漂流者を岸に寄せること、どれをとっても体験の積み重ねがない限り、頭の理解だけでは成功は望めません、是非自分のチームのメンバーと繰り返し繰り返し練習して下さい。



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